ひねくれ者の挽歌「巧いというほめ言葉」

私が落語研究部に所属していたことを知っておられる方も多いと思われます。
今日はそのときのちょっとした話。

さて、一席演じた後、入り口付近で帰られるお客様と言葉を交わす事があるのですが、その際部員の誰かがこう誉められることがあります。


「巧かったよー」


と。
よかったじゃないか、と多くの方々は思われるだろう。
しかし、この誉め言葉は実に問題なのである。
はて、これの何か問題か?

よく考えていただきたい。
落語とはお笑いである。
ならばその感想は「面白かった」か「ワロタ」であってしかるべきである。

ならなぜ「巧かった」なのか?
私はしばらく考えてある結論に達した。

つまり、「巧かった」という言葉の真意は、

「一応滞りなく聞けたけど、面白くはなかったよ」

という意味なのだ、と。
勘違いしないでほしいが、お客様がそのように思って言ったと考えたわけではない。
あくまでお客様は誉めたのである。
しかし、面白い、とはいえなかった。
言うのははばかられた。

だから要は「面白くはなかった」のだろう。
それ以後「巧い」といわれる度に自省するようになった。


批判よりも、誉め言葉の方に人間の本音はでる物だったりする。
くれぐれもご用心を。